もうすぐ日付が変わる。
ひとり静かな山の家。
近隣の村ではまだ花火音。
本日の審評結果についてふいみんとネット電話中。
暴漢たちが襲ってきた。
この家が私を守ってくれた。
私を守るためにたくさん傷ついた。
7つの盾で時間を稼いでくれた。
4つの扉が痛めつけられ、
2つの扉と1つの窓が破壊された。
すんでのところで駆けつけた弟たちが到着。
あと10秒はもたなかった。
程なく彼らは御用になった。
私には傷ひとつない。
おとんが作ったこの家が私を守ってくれた。
離れなかった。
心が拒絶した。
離れてはいけないと思った。
夜が丸見えになった部屋でいつものように寝た。
治してあげたい。
家が叫んでいる。
剥き出しの傷口が泣いている。
老いた体で一生懸命守ってくれた。
限界だったのだろう。
今度は私が守ってあげたい。
この家は私の財産だ。
この家で過ごす時間は私の人生の財産だ。
おとんの大切な家。
おとんが作った製茶人の家。
孤高の魂を感じる。
いつからだろう。
この家でないと「私」は生まれない。
ここでないと私の作りたいものは作れない。
絶対に欠かせない相棒。
瓦が劣化し製茶室も雨漏りする。
天井がゆがみ所々落ちかけている。
壁の漆喰が剥がれ中身が見えている。
金具が錆び付きもろく壊れかけている。
柱や扉は雨風にさらされ腐食してきている。
過酷な自然環境下、おとんと共に約40年歩いてきた。
今おとんひとりで手入れするのは難しい。
今回、到着した日に気付いた。
そうか、この家は私の「アトリエ」なんだ!
この周りの自然環境含めて「私」を作るアトリエなんだ!
いつからかは分からない。
大門を一歩入ると異次元空間に移動する。
全てのパーツが合体した感じがする。
ここでないと生まれない。
この家でないと作れない。
茶葉は私の作品、私自身なんだ。
おとん家族は何年も前から誰も寝泊まりしていない。
もう私しか住んでいない。
時折来る私と仲間だけ。
おとんの子供たちは手入れする気が無い。
今必要としていない。
それぞれ事情がある。
このままでは朽ちてしまう。
今一番住んでいるのは私だ。
今一番必要としているのは私だ。
これは私の役目だ。
おとんと私、ふたりでやろう。
人生でこんな素晴らしい出会いがあるだろうか。
こんなに不思議で、こんなに幸運な縁があるだろうか。
今お茶から繋がる私の幸せは全てこの家からスタートしている。
ここで生まれる感覚・時空・気づき・喜び・お茶たち。
そこから繋がるご縁、真剣に語り笑い合える仲間たち。
みんなみんな私の幸福な財産だ。
がんばらないと。
がんばって真剣に審査して、
がんばって必死に考えて、
このどこにもない、誰にも作れないこの茶葉たちを、
必要としてくれる人を探し出さないと。
おとんと私が感じている本当の価値を、
もしもきちんと伝えることができたなら、
きっとその先に、
必ず出会いはある。
そうしたら治してあげられる。
待っててよ。
あともう少し、がんばって。
さあ、おとんが来た。
老鉄の審評、今日も始めよう!
10年前の仮説たち、果たしてどうなった。
誰も知らなかったこと、知ることができる。
今が「その時」。
集中☆